介護事業者支援センター
介護事業者特有の落とし穴
平成24年度から施行された「介護事業者の労働法規の遵守に関する事項」では「介護サービス事業者の指定権者である都道府県や市町村は、労働基準法等に違反して罰金刑を受けている介護サービス事業者の指定を取り消すことができる」と法律で明記されました。 この背景には、労働基準法等の違反を行っている割合が産業全体で68.5%であるのに対し、介護事業者等の社会福祉施設の違反事業場比率が77.50% と極めて高くなっていることに起因しているものです。
当該法改正以前にも、実は、事業指定取消処分は相当数ありました。厚生労働省によると、2008年度は指定を取り消された介護サービス事業所が、116事業所に上り過去最悪でした。 取り消しの理由は不正受給が最も多く、その他、

記録が不備で実態と異なる
人員配置基準を満たさない
書類提出命令に従わない等も目立ったようです。

今後は、これらに加え、法改正により労働基準法違反による指定取消しも増えることが予想されています。
では、労働基準法違反にならないために、どんな点に注意する必要があるのでしょうか?

大きく3つの「監査の目」という視点で見ていくことにしましょう。


監査の目(その1)移動時間を見る!

次の図をご覧ください。


赤字の移動時間とは、会社、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間であり、この移動時間については、使用者が業務に従事するために必要な移動を命じ、従業員の自由利用が保障されていると認められない場合には、労働時間に該当します。
つまり、会社から利用者宅への移動時間や利用者宅から次の利用者宅への移動時間であり、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合は労働時間と考えられます。

一方、「事業所、集合場所、利用者宅」と「労働者の自宅」との往復に要する時間は通勤時間となるので、労働時間には該当しません。

この他、「業務日誌や作業報告書等の作成時間」、「義務化されている研修時間」、「完全な自由利用が保障されていない待機時間」など、「介護サービスの提供に従事した時間に対して支払う賃金」と、「移動時間に対して支払う賃金額」は、最低賃金額を下回らない範囲で、労使の協議により異なった金額を決めることは差し支えありません。
これらの面から見ても、正確な賃金額の計算と適正な就業規則を作成する必要があるといえます。


監査の目(その2)利用者のキャンセル時の対応を見る!

労働基準法では、介護サービス利用者の都合によるキャンセルや利用時間帯の変更で、訪問ヘルパーさんを休業させた場合は、1日の平均賃金の6割以上の額を休業手当として支払わなければなりません。 ただし、代替として他の利用者宅での勤務を提供したり、就業規則の規定に基づく勤務時間帯の変更等により必要な業務の提供を行った場合等、使用者として行うべき最善の努力を尽くした場合は、休業手当を支払う必要はありません。

ところが使用者としては、あくまで介護サービス利用者からのキャンセルであり、賃金を支払う必要はないと考えがちですが、キャンセルをしたのは労働者の責任ではなく、「利用者と使用者とのの問題であり」、使用者としては雇い主として一定の責任が生じるのです。

勤務時間を変更する場合の従業員への連絡時期、連絡方法、賃金補償や介護サービス利用者に対するキャンセルや変更時の運営を明確に就業規則で明確に定めておくことが望ましいと言えるでしょう。


監査の目(その3)残業代の支払い方法を見る!

あらかじめ一定時間分の残業代を含めた給料を支給する仕組みを「みなし残業制度」といいます。このみなし残業制度の残業代を誤解しているケースが多いのです。
固定残業制度、定額残業制度も意味は同じで、介護業界に限らず、他の業界でも導入している例があります。
但し、「みなし残業制度」を導入する介護事業者の中には、制度をよく理解していない為、気づかずに労働基準法違反に至っている事業者も少なくありません。
月額2万円の見なし残業代で、時間管理もせず数十時間も残業させているケースもありますが、これも「見なし残業制度」の趣旨を理解していない典型的な事例です。
「営業手当を支払っているんだから、営業社員には残業代は必要ないのではないか」と言う論理です。
「みなし残業代」は、職員の何時間分の残業代に相当するか把握されていますでしょうか?   
とにかく、みなし残業制度を活用するにしても、労働時間の適正な管理は不可欠です。
『みなし残業制度』だからと、残業時間管理をしていない事業所もありますが、あらかじめ就業規則、賃金規程、雇用契約書で定めた時間を超過した分は、別途精算して支払う必要があるのです。


<補足説明>

労働基準監督署の調査と臨検
労働基準監督署の調査には、監督署まで呼び出される調査と事業所への立ち入り調査が行われる場合とがあります。後者の調査(労働基準監督署の監督官が労働基準法等の違反の有無を調査するため介護施設などの事業場に立ち入ること)は、「臨検」と呼ばれています。

この臨検を拒んだり、忌避したり、陳述しなかったり、または虚偽の陳述をしたり、もしくは帳簿書類を提出しなかったり、または虚偽の記載をした帳簿書類を提出した者は、30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法101条)。  

臨検(調査)は、何の連絡もなしで入ることもありますが、前もって連絡があり、準備する書類を予告する場合もあります。また、臨検は建設業や製造業などで重大な労災事故を起こした事業所に対して行われる場合が一般的でしたが、最近では介護施設などでも職員による申告(または告発)による事業所への臨検も見受けられるようになりました。

労働基準監督署の申告監督と定期監督

 臨検には、定期監督と申告監督と災害時監督と再監督の4種類がありますが、いま、介護施設や病院など医療機関等で、急激に増加している臨検が申告監督です。
申告監督とは、介護施設などの職員や元職員により、未払い割増賃金(残業代)問題などで労働基準監督署に申告があった場合に実施される臨検です。申告監督は立ち入り調査で行われる場合が多いようですが、監督署へ呼び出されて調査されるケースもあります。  
このように職員による申告が増えた背景には、介護職員にも権利意識が高まり、またインターネットの普及により労働基準法などの労働法規への知識が簡単に得られるようになったことが考えられます。 また、申告監督に対して定期監督は、労働基準監督署が行政方針を策定して、その中で監督の重点業種を定め、定期的な計画に基づいて行われる監督(調査)です。比較的小規模の事業所では行われていませんでしたが、今後はそのような事業所も例外ではないと思われます。
   
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